混迷の世紀Ⅱ-a

ホルムズ海峡問題を考えるための基礎データ

21世紀に入って世界の混乱は加速したようです。混迷の世紀Ⅰを書いたのは2023年初頭でしたが、そのころはコロナ渦がようやく明け、ウクライナ戦争が始まっていました。

混迷の世紀Ⅰ – NPO法人千年文化を考える会

その後ガザの問題を経て、現在アメリカ・イスラエルによるイラン攻撃に端を発したホルムズ海峡問題へと問題が続いています。ホルムズ海峡問題は、エネルギー問題をトータルに考え、未来社会建設の指針とする当会にも、まさに重要な問題であり、これを期に石油問題をトータルに考えて見たいと、エネルギーを通してこの問題を考えて見ました。
 ホルムズ海峡問題が起こって3ヶ月を過ぎましたが、最初から不思議だと思っていたことがあります。それは高市政権が「備蓄が充分にあるから大丈夫だ」と言い続けていることです。よく知られているように、日本の原油生産能力は極度に低く、大部分を中東からの輸入に頼っています。それもほとんどがホルムズ海峡経由で日本に運び込まれています。問題が長引けば、備蓄も底をつき、大混乱になるのは目に見えています。トランプ大統領があの通りの人物ですから、問題解決にどの程度必要か、誰も予測できません。
 それにしてもこれを機会に原油の世界的流れの基本を理解することは、現代社会での石油の重要性から見ても、また脱炭素を戦略的に行う為にも、大切なことだと思われます。幸いIEAが去年年末に、エネルギーSankey図の改訂版を公表し始めたので、そのような作業を行う絶好の機会であると考え、作業にしばらく集中しておりました。

3万5千PJ(ペタジュール)の原油

 このページではIEA公表の世界のエネルギー消費のデータを引用して考察を進めます。このページのデータの信頼性は、IEAのHPから誰でも確認できます。原油の量はIEAが使っているPJ(ペタジュール)でみることにします。またデータは基本的に2023年一年間の総量です。J(ジュール)はもちろんエネルギーの国際基本単位です。それが1000ずつ大きくなるたびにkJ,MJ,GJ,TJ,PJとなるわけです。
 IEAによると、2023年に中東から他の地域の諸国に輸出された原油の量は3万5千PJでした。中東全体の原油輸出量は5万8千PJでした。また全世界での原油生産量は19万PJでした。中東は世界の三分の一弱の原油を産出し、更にその60%を輸出していることになります。
 一方日本の原油輸入量は5千PJでした。中東の輸出量の七分の一の量を輸入しているのです。ホルムズ海峡問題の影響を多いに受けるはずの国なのです。
 原油は化石燃料です。現在人類は大量の化石燃料を消費して、社会生活を営んでいます。そこで化石燃料を一番多く消費する国を見てみましょう。それはもちろん中国です。
 中国は現在一番の工業国です。工場でエネルギーを消費しますが、それはほとんどが石炭と電気で消費されています。その量はおよそ5万PJです。
 国全体の一次エネルギー消費量を見ると石炭が最も多く11万PJに上ります。この多くは国内産ですが、輸入もしています。全世界の石炭産出量は石油よりわずかに少ない18万PJ強ですから、中国は世界の石炭の半分以上を消費しています。
 もちろん石油に対しても世界のトップレベルの消費量になりますが、その量は中東の輸出量にほぼ匹敵する3万3千PJ、そのうち9千PJが国産であり、輸入に大きく頼っています。中国の輸入額は日本の五倍にも上るわけです。
 しかし石油の最大の産出国であり消費国はトランプさんのアメリカです。2023年アメリカは中東の輸出量とほぼ同じ3万5千PJを自国で産出しています。しかしそれでも足りないとばかりに1万5千PJを輸入、総額5万PJを確保して、原油および石油製品をそれぞれ9千PJほど輸出しているのです。

地域ごとの原油の実績2023年

次に地域ごとの原油の産出状況を見ておきましょう。下の表をご覧下さい。2023年の各地域での原油産出量です。単位は千PJです。

地域年間原油産出量(単位千PJ)備考
ユーラシア27内ロシア 22
アジア太平洋15内 中国 9
アフリカ15内 11を輸出
中南米16内 8を輸出
ヨーロッパ7足りずに 26を輸入
中東5835を輸出
北アメリカ52内 合衆国 35

現在高市政権は中東以外の地域からの代替輸入をほのめかしている。しかしそう簡単にはいきそうにもないといういうのが実感である。
まず我々の地域であるアジア太平洋であるが、産出は一万五千PJであり、そのうち中国が9千PJを占める。この地域にはしっかりと輸出に回せる余裕を持つ国はないようである。ホルムズ海峡問題が起こって最初に高市さんが外遊に選んだのはベトナムとオーストラリアだった。念のため調べたが、どちらの国も原油に関しては輸入国である。
 国別で一つ一つ調べてはいないが、上記の表で解るように純粋の移出地域は、中東の3万5千を筆頭に、アフリカの1万1千PJ、それに中南米の8千PJだけである。それにロシアの産出2万2千PJのうちの半分の1万1千PJほどが加わるが、ウクライナ戦争が集結するまで原則的に考慮外だろう。アフリカの1万5千のうちの輸出1万1千PJは恐らく中国が抑えているのだろう。台湾の頼総統の飛行機がアフリカ3国の上空通過を拒否されたという記憶が思い出される。

唯一代替の可能性があるのはアメリカである。しかしアメリカはホルムズ海峡問題を創り出した責任がある。
高市政権がどういう意図を持っているかまだ解らない。上記データは2023年の統計だけを見たものである。アメリカの意図を推察するには、過去を遡って統計を見なくてはならない。近いうちにその統計を使って、原油の流れの理解を深めようと思う。乞うご期待。