20世紀‐石油と電気の世紀

石炭の世紀19世紀を継いだのは、石油と大量の電気が作り出す20世紀社会でした。石炭がそれまでの社会を大きく変えたように、石油と電気は、19世紀石炭社会を大きく変えました。

石油と石炭は何が違うのか?

石油と石炭はエネルギー源として何が違うのでしょう? CO2の排出量が違うって? そんなことは本質的ではないですよ。そしてCO2の排出量に大した違いはない。
 決定的な違いは石炭が個体であるのに対して、石油は液体だということです。液体だからこそ、ガソリンスタンドで簡単に供給することができ、自動車はタンクを装備することによって簡単に供給してもらえます。石炭でこんなことできますか?
 液体であるからこそ、自由に変形しやすい。これがガソリンスタンドで、簡単にどんな形状の容器にも供給できることにつながりますが、さらには変形が容易なことで、大量の空気に触れることができる形状を作り出し、燃焼の速度を速めることができます。そのためエンジンが作りやすく、エンジンがあっという間に社会を変えてしまったのです。

石油は何をもたらしたか?

自動車

石油がもたらしたものは多い。燃して熱エネルギーを発生することでは、石炭や天然ガスと変わりませんが、石油は火力発電にはほとんど使われていません。これは単純に「石炭でも天然ガスでもできる発電に、石油を使うのはもったいない」からであり、石油は20世紀以来最も重要なエネルギー源となりました。
 例を挙げて見ましょう。ほとんどの自動車はガソリン、軽油を燃料として走っています。これは液体燃料として、燃料タンクにコンパクトに投入できることと、エンジンが作りやすいことによるところが大きいでしょう。石炭は蒸気機関車は作りましたが、蒸気自動車は作りませんでした。この理由をしっかりと押さえておくことは大切です。石炭による蒸気自動車は、考えつかなかったわけではないでしょう。実証実験で失敗したのです。ほとんど走らなかった、あるいは坂を上れなかった、そういう現象が見られたでしょう。
 蒸気機関車は走り、蒸気自動車は走らない理由は、簡単だが大事なことです。蒸気機関車は軌道の上を走るから、摩擦抵抗が格段に少ないのです。同じ重量の自動車と電車が同じ速さで同じ距離を走行するのに必要なエネルギーを比較すれば、電車は自動車の1/5程度で済みます。
 自動車は液体燃料である石油と一番相性がいいのです。20世紀が自動車主流の時代となったことは、それを証明しています。

飛行機

飛行機も石油を使うようになって開発されました。比較的軽い燃料タンクを積み、空気に大面積で接触させることによって瞬時の燃焼量を格段に大きくできることは、飛行機にとって都合がよかったわけです。
 こうして飛行機と自動車は、20世紀の交通手段を、大きく変えてしまいました。世界的な移動がその日のうちに行えるようになり、世界は狭くなりました。化石燃料時代の最終段階‐グローバルな時代‐へと21世紀の初めには時代が進んでいったのです。

素材

人工的な素材を大量に使うようになったのも、石油の重要な役割になりました。それまで絹や木綿、麻と言った植物由来の素材で衣服は作られていましたが、石油が大きくそれにとって代わりました。ナイロン、ビニール、ポリエステル、プラスティックなど、石油は素材に使われています。IEAなどの資料を見るとき、これらの用途で使われる化石燃料は「非エネルギー利用」non-energy-useと分類されています。
 素材として使われたものを、最終的に処分するのは、ごみとして処分されます。現在日本では平均的に一人当たり1kgのごみを処分しています。ごみのほとんどは処分場で燃焼処分になりますが、そのとき発電したり、温水プールなどの利用を行ったりします。しかしごみ処理場で効率よい発電を行うのは難しく、発電効率は10%程度にとどまっています。

電気は何をもたらしたか

19世紀の終わりから20世紀初め、石油を使った自動車と飛行機の開発が進められると同時に、19世紀の物理学の進歩がもたらした電気と磁気の理論を使って、電気磁気学の応用技術の研究も進みました。水力や火力を使った発電所が設置され、各家庭や工場それに第三次産業の各商店・事務所に、電気が配電されました。現代日本では、電気の差込口がない建物は考えられなくなっています。

家庭で

あなたの家庭を見回すだけで、電気があらゆるところで活躍しているのがわかります。
 身の回りを見てください。照明、テレビ、オーディオ、パソコンやスマホだって。洗濯機に掃除機。夏と冬には欠かせないエアコン。今時エアコンがなければ、熱中症の危機に直ちに陥ります。
 気が付かないところでも使われています。例えばトイレ。洗浄水を流すのも電気を使います。
 またあなたがマンションに住んでいるとすれば、エレベータ。上下の動きには地球の重力による位置エネルギーの変化が伴いますので、上下運動には出力の大きい電動モーターが不可欠です。建物の高さが高くなって、五階建て以上の建物が集合住宅として多くけんちくされるようになったのは、電気をふんだんに利用できるからなのです。

高層ビル

20世紀を特徴づける建築物として、高層ビルがあります。飛行機が石油なしでは発明できなかっただろうと同じように、高層ビルは電気なしにはできなかったでしょう。ニューヨークやシカゴで始まった高層ビル群‐摩天楼‐は20世紀の産物で、それが世界の大都市に引き継がれました。
 高層ビルは恐ろしく電気を消費します。ある高層ビルのパネルに、秋の夕刻7時頃、その日の毎時に消費した電力量の一時間毎の値と、その屋上に取付けられたソーラーパネルが、その日の夕刻7時までに丸一日かけて発電した電力量とを、並列してありました。通常はそういうデータが表示されることはありません。理由はすぐにわかります。私が見たその高層ビルのパネルには、こういう値が示されていたのです。
 朝9時から一時間毎の消費で力量は、時間帯によって若干の変動がありますが2500kWh前後、一方丸一日かけて屋上のソーラーパネルが発電した電力量は10kWhほどでした。一日かけての発電量は、10秒そこそこで消費されてしまうのでした。高層ビルは自己の範囲の再生可能エネルギーでは、絶対に維持できないのです。

原発

上に記述した高層ビルの例で解るように、集中して人口が密の都会には、電気を浪費して成り立つ様々な施設があり、大量で安定した電気を供給する必要があります。そこで原発が開発されました。原発一基当たりの発電量は1ギガワット程度、つまり100万kW程度ですから、そのような原発が1基あれば、前述の高層ビル(30階建てのあまり面積は広くない中型の高層ビルです)を400ほど支えることが出来ます。