トランプとエネルギー危機ーそれは1973年に始まった

 時代の区分は当たり前ながら明確ではありません。でも時代は変わります。時代の区分となる年は時代の変化を理解するために必要です。1973年はどのような年でしょう。
 日本では戦後高度成長が終わった年として考えられています。では何故高度成長が終わったのか? 戦後初のエネルギー危機ーオイルショックが世界経済に大きな打撃を与えたからです。第四次中東戦争で、中東からの石油が大幅に値上がりしたのです。日本ではトイレットペーパーが商品として消えてしまいました。この3月で定年退職を迎えた人より古い年代の人には、鮮やかに記憶が残っているでしょう。最近ではコロナ渦の初期に再現された不思議な現象です。トイレットペーパー不足という不思議な現象は1973年に始まりました。
 中東で何か起これば世界が混乱します。それは第二次世界大戦後の時代を象徴する出来事です。第二次世界大戦以来、石油は経済の生命線を握ってきたことを日本人は知っています。アメリカに石油輸出を止められたから、日本は無謀なアメリカに対する戦争に突き進んだことを日本人は皆知っています。だから中東から石油が止められるとすれば、日本での日常生活も破壊されると、そのころまだ鮮やかだった太平洋戦争の経験から、1973年の日本人は恐怖したのでしょう。戦後社会の石油依存体質の世界的脆弱さの露呈、それは1973年に始まりました。
 1973年に始まった世界的な組織にIEA(国際エネルギー機構)があります。トランプ大統領のイラン攻撃以来、しばしばニュースに出てきますから、その名前を記憶した人も多いでしょう。1973年の記憶から、石油の安定供給が経済安定には欠かせないと気がついた諸国政府が、その必要性を痛感して創設された国際機関です。日本はとっくの昔知っていたのですがね。安定供給の為に、世界各国のエネルギー消費を、毎年正確に把握することが、IEAの任務の土台としてあります。
 将来のエネルギー危機に備えて創設されたIEAは、全世界の各国でのエネルギー産出および消費の実態を毎年把握することにしました。そしてそれを公表することになったのです。
 これについては上手な仕組みを作りました。エネルギー創出および消費について、エネルギーバランス表という国際標準を定め、その為のデータを各国に毎年報告させるようにしたのです。そのエネルギーバランス表をビジュアライズさせたSankey図を、現在我々はIEAのHPで見ることが出来ます。それをここではご紹介しましょう。

全世界のエネルギーSankey図

2023年における全世界でのエネルギーバランス表を、Sankey図から見てみましょう。Sankey図は各国について作成され、IEAのHPで見ることが出来ますので、 エネルギー問題考察に欠くことができないツールとなるはずです。
 エネルギー産出と消費は、一次エネルギー供給と最終エネルギー消費という概念で明確化されます。

 上にあるのが2023年の全世界でのSankey図です。

一次エネルギーと最終エネルギー消費

 IEAのHPには莫大な量の図や解説があります。最も簡単な見つけ方は、検索エンジンでIEAとSankeyを並べて検索すると、上の図が掲載されているページを見つけることができ、そのページをスクロールしていくと上の図が見つかります。
 一番左から見ていきます。二つの塊があり、それぞれがdomestic productionとimportsとに分けられています。domestic productionが、2023年での全世界でのエネルギー産出になります。そして全世界での一次エネルギー供給になります。2023年では約63万PJ(ピタジュール)となっています。
 ジュール(J)はエネルギーの国際標準単位で、高校の基礎物理でも習うでしょう。日常生活で最も頻繁に使われるカロリーとは、$1 cal = 4.2J$の関係があります。ピタ(P)は、k(キロ)から始まる1000単位で増える補助単位で、スマホでもおなじみのG(ギガ)の次の補助単位です。キロ、メガ、ギガ、ピタの順に大きくなります。千、百万、十億、兆と考えれば1pJは一兆ジュールということになります。これをこのページでは基本単位に使います。如何に大きな数だというのは、日本の国家予算も兆円の規模にとどまり、その一万倍にはなっていませんことからわかりますが、世界のエネルギー消費は一兆ジュールを単位として、その何十万倍で考えなければならない量なのですね。
 さてSankey図に戻ります。一番左一次エネルギーのdomestic productionをクリックすると、すでにある図の下に詳しい図が更に現れます。大きい順に原油、石炭、天然ガスと続きます。これら化石燃料が、すべて一次エネルギーの20%以上の割合を占めており、四番目に多いが10%以下であるバイオ・ごみを抑えて圧倒的な産出量を示しています。まさに我々は化石燃料時代に生きているのです。各種一次エネルギーは色分けした線で表され、その線の太さがエネルギー量を表しています。そして元のSankey図を使えば、その量が解る仕組みになっています。例えば原油の生産は約19万PJとなっており、全一次エネルギーの30%ほどを占めていることがわかります。
 Sankey図の左端にあるのが一次エネルギー供給なら、図の右端にあるのが最終エネルギー消費になります。これは上から家庭、第三次産業、工業(第二次産業)、第一次産業、交通、非エネルギー利用と続いています。縦に引かれた黒線の長さから、各部門のエネルギー消費の大きさが、ビジュアルにわかりますね。工場で消費されるエネルギーが一番多くの割合を占めており、その後交通部門での消費が続きます。そして交通のエネルギーの大部分を占めるのが、石油であることは一目瞭然です。非エネルギー利用とは、ナフサを経由した石油製品などを意味します。
 さらに原図を調べればわかりますが、石油を最も利用する交通部門では11万PJほどを消費し、ナフサでは三万PJほどを消費しています。家庭での消費は八千八百PJほどであり(これはほとんど灯油でしょう)、第一次産業でも一万三千PJほどが消費されます。こうしてみると、ナフサが寒い冬をしのぐためや、農業漁業で食料を確保する為の燃料よりもはるかに大量に使われており、何かもっと賢い工夫が普段から必要になると、思えてなりませんがいかがでしょうか? 環境を気にしてマックが紙ストローを使い始め、トランプがそれを止めてプラスティックストローが良いなどいう、そんなことよりもっと良い工夫が考え出されるでしょう。
 もちろん石油の半分ほどを使う自動車をなんとかすることは是非とも必要で、それがこのホームページ全体を貫く大きな柱となっています。

エネルギー変換

 図の左の一次エネルギーから右にある最終エネルギーへは、エネルギー変換が伴います。電気は一次エネルギーにはありませんが、最終エネルギーでは明らかに重要な役割を持っています。電気は図の真ん中下方にある、power & heat plantsで創り出されるわけです。
 ここで左から入るエネルギーと右に出るエネルギーには、明らかな量の差があります。これは火力発電や、原子力発電で発生した熱エネルギーを、電気エネルギーに変える時に必然的に生じる現象で、エネルギー変換効率には、カルノーの原理による限界があることの表れです。エネルギーは明らかに物理法則に従うのです。
 plantsに左から入るエネルギーを見てみましょう。まず石油がほとんど入ってないことがわかりますね。昔火力発電で石油も使われていましたが、現在それはほとんど消滅しました。発電で石油を使うのはもったいないという意識を、関係者が共有していることがよくわかります。発電の主役は石炭と天然ガスです。脱炭素では天然ガスが善玉で、石炭の悪役と比較論ぜられますが、これっていつも問題の単純化と私は思いながら聞いています。もっと突っ込んだ議論が必要です。単純に天然ガスが良くて石炭はだめだという議論では、脱炭素など進みません。
 天然ガスも石炭もどちらも発電でのエネルギーロスが大きく日本では発電効率はおよそ40%になります。世界的にみると30%くらいでしょう。確かに平均的には日本の発電は優秀に見えますが。
 発電でのエネルギーロスは、現在見ている世界Sankey図でもわかります。世界中で見て石炭が十一万五千PJ、天然ガスが五万八千PJほど発電に使われているのに対し、世界で電気は十万八千PJほどしか生産されていません。
 さらには化石燃料以外のエネルギー源については、IEAの考え方をよく理解しておかないと、誤解に至ります。化石燃料に次いで大きな一次エネルギーは、バイオ・ごみになりますが、これは大部分が家庭や工場での燃料(恐らく主として暖房)になります。発電にも一部使われていますが(一万一千PJほど)、石炭などと同じくその一部が電気になるだけです。
 発電に使われる一次エネルギーで、バイオより大きなエネルギーは核エネルギー(Nuclear)です。およそ3万PJが発電に使われています。この1/3(つまり一万PJ)ほどが電気になります。石炭などは重量を量って投入エネルギーにします。バイオも同様です。しかし核燃料は核燃料棒の一部のウラン235だけが、エネルギー放出をするので、燃料棒の重量では投入エネルギーを知ることが出来ません。そこで原発の発電量の3倍を投入一次エネルギー量と決めています。何故3倍にするかと言えば、実験炉でウラン235消費量と、発電量の比を取れば大体3:1の比になっているからです。
 またこの量は理論的にも納得いく量です。核エネルギーでは効率的に電気が得られていると人々は思いがちですが、事実はそうではありません。確かに核反応から放出されたエネルギーは、温度にすれば一千万度ほどあるでしょう。しかしその温度に物質は堪えられません。そこで安定して長時間エネルギーを得るため、反応から得られたエネルギーを拡散し、数百度まで下げます。そしてその後になって火力発電と原理的に同じ仕組みで熱エネルギーを電気に換える発電を行います。熱エネルギーの内どれだけが電気エネルギーに変わるのかが発電効率になるのですが、数百度からの発電だと、効率の限界も4~50%となって、現実的には30%強にしかならないのです。
 一方水力および他の再生可能エネルギー(太陽光発電、風力発電、地熱など)では、莫大な自然に存在するエネルギーのうちどれだけが発電に関与したか、不明となります。例えば風力発電を考えて見ましょう。風力発電では、風ネルギーが電気エネルギーに変わります。しかし莫大な量の風エネルギーがその地帯にある中で、得られた電気エネルギーはごく一部であると考えられます。従って得られた発電量をそのまま投入一次エネルギー量と見なし、IEA仕様のエネルギーバランス表は作成されています。

輸出と輸入

 日本では化石燃料ほとんどすべてが輸入に頼っています。したがって後で見るように、日本での一次エネルギーはほとんどが輸入に頼っています。上にある世界のSankey図では、世界各国の輸入量の和と輸出量の和もSankey図に組み込まれています。原理的に考えて、世界のエネルギー総輸出と総輸入は同じ値でなければいけません。実際元の図で確かめてみると、ほぼそうなっています。違いはここでは考えないことにしましょう。
 原油の総輸出量はおよそ十万PJ、石油製品総輸出量は約五万九千PJとなっています。世界全体で見ると、採掘された原油の半分強が、輸出に回されたことになります。石油を売ることで経済を回す国と、買わなければ経済が回せない国と、明らかに違った経済原則になるわけです。

日本におけるエネルギーsankey図

 言うまでも無く日本は石油を買って経済を回しています。それをSankey図で確かめてみましょう。


左側にある一次エネルギーですぐ解るように、国内産出ではなく輸入が圧倒的に多いことですね。一次エネルギーでは、化石燃料の国産はほとんど無く、ほとんどすべてそれも大量に輸入に頼っている状態です。それも石油が大きな割合を占め、原油を五千二百PJほど、石油製品を千七百PJほど輸入しています。世界で原油の輸出入が約10万PJでしたが、日本ではその二十分の一ほど輸入しているわけです。一方石油製品は輸出の対象でもあり、五百PJほどが輸出されています。

アメリカでのSankey図

日本と対照的な国はアメリカです。戦後日本はアメリカのまねばかり?してきたように思えますが、アメリカのまねをするのは、エネルギー事情を見れば、直ちに馬鹿げたことと解るでしょう。
 アメリカはほとんどエネルギー自給国です。石油は三万五千PJほど産出しています。世界全体の二割弱を産出しているわけです。しかしそれでもなお、一万五千PJを輸入しています。

 一方石油を輸出もしていて、原油を九千四百PJ、石油製品を九千七百PJほど輸出しています。トランプ氏がアメリカの石油を買えと言っているのは、掘って掘って掘りまくれと言ってたのを受けて、売って売って売りまくれと言う意味なんでしょうか。商売敵の商品を瑠ツ出来ないようにして、自分の商品を買えと言ってますよ。
 こんな商売アメリカでは当たり前だから、アメリカファーストなんだろうけど、日本でこんな商売やったらどうなる? ひょっとしてアメリカ産原油が売れるようになるから、ホルムズ海峡封鎖も成果だと思っているのかも。おっと、熱心な福音派キリスト教信者のトランプさんが、そんなえげつないこと思ってるはずないですね。

中東でのSankey図

ホルムズ海峡封鎖で原油の供給に大きくストップがかけられている中東のSankey図を見てみましょう。日本ともアメリカとも見事に異なった様相が見て取れます。

中東での原油産出は五万八千PJそのうち三万五千PJが地域外へ輸出されています。また地域で精製される石油製品は二万三千PJになりますが、そのうち一万PJが輸出されています。つまり中東から輸出される石油は併せて四万五千PJであり、アメリカの現在の輸出量二万PJ弱の二倍以上の量になります。これをアメリカが掘って掘って掘りまくって、売って売って売りまくる、なんてできないと思いますがね。
 ちなみに石油生産量について一世紀前からアメリカは自信を持っていました。昔はやった西部劇では、交通手段は馬車そして鉄道でしたが、自動車王たちが自動車を造りまくり、道路を造りまくり、鉄道を壊しまくりました。その結果現在のアメリカでのエネルギー消費は、交通の部門が特別に突出しています。
 アメリカは過去をみると石油に様々な規制をかけています。上に見るアメリカのSankey図で、明らかに交通部門のバイオが目立ちます。これは主としてガソリンにバイオエタノールを10%ほど混入させているためであると思われます。かつてそれが義務づけられていると聞いたことがありますが、おそらく今でもそうでしょう。
 要は広大な農地で大規模農機具をつかって大量生産されるトウモロコシが、何らかの理由で人や家畜によって消費されない場合の安全策として、容易に切り捨てられるトウモロコシの消費場所を、非食量利用としてのエネルギー利用で創り出すために、自国産トウモロコシから作られるバーボンを工業的に大量生産し、100%に蒸留しガソリンに混ぜているわけです。環境の為ではなく、石油を大切にしようという発想です。
 石油でグレートになったアメリカは、かつては自国の石油を大切にするために、原油の輸出規制もかけていました。世紀の変わり目の頃でした。自国の法律でアメリカは原油を輸出することは出来なかった時代もあったのです。
 シェールオイルで様相が一変しました。自国でこれだけ使ってもまだ石油は掘れると。シェールオイルは最初の投資を含め採掘費用が高価なため、必然的に原油価格が高くなるはずですが、中東問題で石油が高くなると、シェールが採算が取れる産業となると、トランプさんなら当然良いディールであると思うでしょうね。
 あほらし、アメリカファーストってこんなこと。アメリカのエゴ丸出し。二~三世紀前西欧社会の異端であると弾圧された「ならず者達」が新天地を求めて移住し、原住民(インディアン)を追い出して作ったアメリカのエゴ。それをまねして×民ファーストって政党を作った日本の一地方もあるとか。ア~ア、ホンマ嫌になるわ。
 あほらし。はよ石油依存から撤退した方が勝ちデッセ。脱石油依存これで行きまひょ。

ロシアのエネルギーSankey図

ロシアも原油輸出国として知られています。ロシアもSankey図を見ておきましょう。

 ロシアも資源大国であることは、Sankey図で明らかでしょう。石油、天然ガスともに二万二千PJほど産出しています。天然ガスのかなりの部分は自国で消費していますが、原油は半分の一万一千PJを輸出していますし、更に石油製品の四千五百PJを輸出しています。ウクライナ侵攻前までは、天然ガスもほぼ半分輸出されていましたが、経済制裁で特にヨーロッパ諸国が天然ガス輸入をロシアからしなくなったので、天然ガス輸出量は確かに減少しています。その代わり、中国やインドが制裁に加わらなかったので、石油の輸出が多少増加しています。2026年のSankey図は、恐らく2028年終盤に発表されますが、どのように変わっているでしょうね。