気象って何だろう?

気象を理解する鍵ー古事記と異常気象

 気象という言葉はよく使われていますが、その意味って何だろうといわれると、はたと困ったりします。最近では気象という単語は、異常気象という合成語のなかで一番良く聞いている気がします。しかし異常でない気象とは何なんだろう?
 気象という単語を広辞苑で引いてみてください。意外と思われる説明が第一番にあげられています。日本では気象という言葉は、最初に古事記に出てくるのです。日本では本来気象という言葉はこのように使われていたということです。

臣安万侶言さく、夫れ混元既に凝りて、気象未だ效れず。

 この文章は古事記の最初に出てくる文章です。旧約聖書の創世記に当たる部分。明らかに古代日本人の宇宙観を表しています。
 この文を最初に読んだとき、私は太陽系の初期の描写ではないかと思いました。現代物理学が解明する太陽系の起源を一つの文であらわすとこうなるだろうという文章なのです。
 現代物理学で解明されたことを簡単に述べますと、太陽系は約50億年前に形成されたもので、宇宙の広大な空間の中の大量のガス(主として水素)が重力によって徐々に凝縮していき(混元既に凝りて)、中心に巨大な塊(これが太陽となります)と、それをまわる小さな数多くの塊(惑星を含む太陽系の小天体になります)に集約していきます。そして中心の巨大な塊が更に収縮していく中で、高温化し、その結果巨大な数の水素が核反応(核融合)を起こし始め、核融合によって強大なエネルギーが生み出され、できた太陽の中心部の高温状態が保たれると同時に、そこで引き続いて起こる核融合反応によって、周囲に太陽光というエネルギーを放出し始めます。(太陽がエネルギーを出し始めて、初めて気象が現れる)そのイメージをそのまま捉えて、気象とは「巨大な太陽エネルギーが、地上に引き起こすすべての現象である」と定義すると、日本人の多くに素直に納得がいく定義を与えているように思います。そして世界の人にも、日本文化のそれこそ根元にあるバックボーンなのだと説明可能な考え方なのではないでしょうか? 古事記の記述は、太陽系となる諸天体は固まったが、まだ太陽エネルギーの流れは現われていない、原始太陽系の記述と考えると、実に鮮やかに意味がわかるのです。
 古事記のあと気象という言葉が頻繁に出始めるのは、明治時代です。明治時代メテオロロジーが気象学と翻訳されました。それが現代の気象という言葉に繋がります。ちなみにメテオールという言葉は流星を意味するものであり、メテオロロジーはそのまま訳せば流星学となりますが、それでは意味がわかりません。
 ヨーロッパ中世には、天界と地界は厳密に区別され、天界での運動は例えば太陽や惑星のように周期的に同じ現象を永久に続けます。ちなみに天動説では太陽も月も惑星でした。一方地界での運動は複雑であり、基本的には予言できません。天に見る諸現象はほとんどが天界での運動であるが、流星だけが地界の運動であり、したがって周期的ではなく予測不可能である。ひいては近代以降、地界の運動をできる限り正確に予言しようとする学問がメテオロロジーと名付けられたと私は理解しています。
 気象をどのように捉えるか、それは微妙に文化の違いにもよります。そして異常気象を含む気象を考える時、私は日本文化の奥深さを感じ、その文化を基に考えると未来を納得して創造する道が開けるように思うのです。

気象って何だろう


 改めて気象って何だろうの答えを私は次のように答えたいと思います。

気象は太陽エネルギーが地上に引き起こすすべての現象のことをいう

太陽は莫大なエネルギーを地球に送ってくれています。そして地球上に驚くべき多様な現象を引き起こしています。
 現代の意味での気象は、前述のようにメテオロロジーの翻訳として作られた気象学からきます。西洋の単語を最も近いと思われる日本伝統の言葉に直したのです。直訳の流星学は明らかに意味をなさない以上、日本文化から最も近い意味を持つように定義し直すことが日本人として発想しやすいことになるでしょう。そこで上のように定義してみましょう。
 太陽エネルギーは様々な現象を引き起こします。太陽エネルギーは、陸や海を暖めます。地上の様々な条件から、地域によって寒暖の差が生まれます。それによって大気圧の差が生成されます。その結果晴れたり曇ったり雨が場合によっては雪が降ったりします。気圧の差は風を生みます。これら現象を考察することが、狭い意味の気象学です。これらの現象はすべてそれに伴ってエネルギーを持ちます。それはすべて太陽エネルギーによって引き起こされるので、太陽エネルギーが変換されたエネルギーであると考えることが出来ます。言い換えればこれらの現象から得られるエネルギーは自然エネルギー(再生可能エネルギー)です。
 上記定義にしたがえば、生命現象も広い意味で、気象と言うことが出来ます。我々生命体は、常に活動しています。活動にはエネルギーが必要です。そのエネルギーを、我々は食事から得ます。成人した人のエネルギーは一日約2000キロカロリー。これは一秒あたりに直せば約100ジュール。つまり人は一人100Wで生きています。エネルギーの性質から、エネルギーはすべて最後は熱エネルギーになりますから、人は一人100Wのヒーターでもあります。今世界の人口は81億人を超えているそうです。全人類の生物としての活動エネルギーは8100億Wとなります。
 この8100億Wのエネルギー源も太陽です。食物は植物(野菜、果物)と動物(肉、魚)ですが、植物がエネルギーを持つのは、光合成で太陽エネルギーを蓄えたからで、動物は食物連鎖でエネルギーを保有します。そういう意味で生命体も太陽エネルギーの流れの中で活動しているのです。広い意味での気象なのですね。
 太陽エネルギーは地球に絶え間なく降り注ぎます。その大きさは174兆キロワットです。このエネルギーが気象を引き起こします。これを流れと考えるとイメージがわくかも。全人類の活動エネルギーの流れの大きさは8100億ワット、つまり8.1億キロワットですから、地上での太陽エネルギーの8.1億/174兆、およそ百万分の四位の支流で人類は生存しているのです。
 こうして太陽エネルギーは地上でエネルギーの流れを創り出します。様々なエネルギーに変換されることによって。そして最後は熱エネルギーに変換されます。そしてその熱エネルギーは主として赤外線として地球から宇宙に向けて流れていきます。その大きさは、やはりもちろん174兆キロワットです。太陽エネルギーを源流とし、地球の上部に流れる174兆キロワットのエネルギーの流れが創り出すすべての現象、それが気象です。それらの現象は活動している以上エネルギーを持ちますが、それはすべて太陽を源に発するのです。

異常気象

 人類は産業革命前、すべて広い意味での気象の中で生きていました。風車、水車、川の流れの利用、海の流れの利用。そして牛馬のエネルギー、人のエネルギー。すべて174兆キロワットの流れの一部です。
 産業革命以来、人は大量の化石燃料消費を始めました。そしてその量は年を経るにしたがって増加を続け、多少の変動はありますが、現在では約160億キロワットのエネルギーを人類は化石燃料から得ています。これも最後は熱エネルギーとなります。言い換えれば160億キロワットのエネルギーの流れが地上で起きるようになりました。これは人為的なエネルギーの流れです。太陽からのエネルギーの流れが気象を生むならば、この化石燃料を燃す、あるいは原子力を利用するのもエネルギーの流れを造ります。これを異常気象と考えてみましょう。異常気象のエネルギー量は、本来の気象のエネルギーの約一万分の一に過ぎませんが、これが今や無視できない諸現象を起こし始めているのです。
 太陽起源であれ化石燃料(含核燃料)起源であれ、エネルギーの性質は全く変りません。したがって現代人は174兆キロワット+160億キロワットのエネルギーの流れの中で生きるようになりました。

ヒートアイランド


 しかし太陽起源のエネルギーの流れと、人為的なエネルギーの流れに、いくつか決定的な違いがあります。その一つは人為的なエネルギーの流れが、極度に局所化されていることです。これは太陽エネルギーの性質ー広大な地球の上に広く降り注ぐ性質ーとは非常に異なった性質です。
 エネルギーの性質として、消費するエネルギーは最後はすべて熱に変ることを思い出せば、人類は今やエネルギー消費が大きい場所で、強力な熱源を持っていることになります。例えば東京都で消費するエネルギーは、人口が大きいために当然大きくなりますが、東京都での人為的なエネルギーの流れは、東京都への太陽エネルギーの流れの1/10にも上ることが概算で解ります。これは東京都の気温を当然上昇させます。一般に都会ほど消費エネルギーが大きいですから、都会ほど気温上昇が大きくなります。今や都会では平均気温が周辺よりも一度以上高い現象は当たり前のように起こっており、これはヒートアイランド現象として知られています。ヒートアイランド現象が都市環境に悪影響を与えるようであったら、その都市でのエネルギー消費を抑える努力をしないといけないことになります。
 例えば京都で令和6年7年と異常な夏が観測されました。猛暑日と熱帯夜が、例年になく多く観測されたのです。これはヒートアイランド現象によることが大きいと思われます。
 一般にヒートアイランドは、最高気温も上げますが最低気温をより高くします。何故なら本来の気象なら、太陽エネルギーが注がなくなる夜には、気温が大きく下がって当然なのですが、人為的な活動は夜にでも続きますから、人為的なヒートアイランドは最低気温を上昇させるのです。
 京都は盆地です。盆地はヒートアイランド現象を大きくします。何故なら異常に発生した熱を拡散せず、盆地に閉じ込めるからです。こうして盆地は盆地内のエネルギー消費をできるだけ抑えることが、肝要になることが解ります。人為的な熱の発生は東京や大阪の方が明らかに大きいのですが、どちらの都市も比較的開かれた地形にあり、熱を拡散することが出来るのです。

海洋温度上昇

 近年異常豪雨が続きます。特に線状降水帯という厚い雲が、海陸の境界を起点に発生し陸部に直線状に伸び、長期にわたる豪雨をもたらす現象が注目されています。昔聞いたことも無かった線状降水帯ですが、これは近年の海水温上昇によることが大きいと言われています。昔聞いたことも無かったという実感が、現代の何かの病によるものじゃないかと思わせます。それが毎年のようにどこかで起こっているのです。はたして線状降水帯って百年後に残っている言葉でしょうか?
 海水温上昇は何故近年起こっているのでしょう? これは一般には二酸化炭素を含む温室効果ガスの過剰発生が、気温のみならず海水温を引き上げているからであると思われているようです。しかし理化学辞典を見てみると、日本近海の海水温上昇が地図上に示され、処によっては1.5℃以上の場所もあります。気温の上昇を1.5℃以下に抑えるというIPCCの議論は報道によって知られていますが、海水温の一部はすでにそれ以上であることをどう考えれば良いのでしょうか?
 統計を見て簡単な理屈を使えば解ることですが、海水もローカルに人為的な仕組みで大量の熱を与えられています。大規模火力発電所および原子力発電所が熱の発生源です。
 火力発電も原子力発電も、熱エネルギーから電気エネルギーを発生させる装置です。これは一見エネルギーの法則に反するように見えます。なにしろエネルギーは最後の形態として熱エネルギーになるのですから。そこで熱エネルギーから他のエネルギーに変換するときの基本法則ーカルノー理論ーが教えることを知っておかなければなりません。
 とは言っても難しくはありません。カルノーが考えたことはこうでした。

  • 熱エネルギーは高温部から低温部へ流れる(これ現代人から見ると当たり前ですね)
  • そのとき、流れる熱エネルギーの一部を他のエネルギーに変換できる
  • 変換できなかったエネルギーは低温部に流れる
  • 熱エネルギーのうち、他のエネルギーに変わる割合の上限はカルノーの式でわかる(簡単な式ですがこれをエネルギーの専門家は、その理由を含めて皆勉強します。でもほとんどの人がわかりにくいと言います。)
  • カルノーの式によると高温部と低温部の温度差が小さいほど、無駄に低温部に流れる熱の割合が大きい

 これを発電に置き換えるとこうなります。ガスを燃したりウランを核分裂させたりして高温部を創り出します。そしてその熱を低温部に流します。低温部は熱を大量に受けてもさほど温度が上がらないよう、水冷が望ましい。したがって日本では大規模火力発電所も、原子力発電所も海水を低温部とします。原発や大型火力発電所がすべて海辺にあるのはこのためです。
 発生した熱エネルギーの一部は電気に変ります。ですが変われなかった熱エネルギーは、そのまま海に捨てられます。熱の流れの一部しか電気に変われないのですから、仕方が無いことです。
 日本では火力発電の効率は平均して約40%です。のこりの60%は海に流されます。言い換えれば発電した電気エネルギーの1.5倍の熱エネルギーが海に流されるのです。また原発の効率は約1/3です。何故なら原発の高温部の温度が低くなるから低温部との温度差が小さくなるからです。原発では発電量の二倍の熱エネルギーが海に捨てられます。日本のエネルギー消費のかなりの部分は電気で消費されています。したがって電気エネルギーの消費と同じ規模の大きさの熱エネルギーが、日本近海を暖めています。
 海に捨てられた熱エネルギーはどうなるのでしょうか? たとえ1℃上昇でも広大な海に広がった熱エネルギーは莫大なものになるでしょう。台風や局地的豪雨のとき、そのエネルギーは雨や風のエネルギーと変ります。こうして直近の豪雨が激しいものになっている可能性を否定出来る人はいないでしょう。海は温度が上がりにくく、その分熱エネルギーを蓄えやすいのです。高度成長以来毎年間違いなく海に蓄えられてきた熱エネルギーは、線状降雨帯や台風の仕組みのエネルギーと代わり、豪雨としてローカルに多大なエネルギーをまき散らします。つまり被害を大きくします。このメカニズムによると、原発は環境に優しいエネルギーとは、決して言えないことになります。

温室効果ガスと科学的思考

 この論考では二酸化炭素を初めとする温室効果ガスの説明はしませんでした。二酸化炭素増加が温暖化をもたらす可能性はあることは少し勉強すれば解ります。ただしそのもたらす気温上昇が1℃なのか、0.1℃なのか、素人にはその大きさの見当もつきません。ましてその影響がどのようにして広がるのか、素人には解るすべはありません。すなおに考えれば、陸の方が熱容量が小さく暖まりやすい。何故海の温度が気温より上昇するのか分かたないですよね。そこでその根拠は専門的で一般の人には解らないけれど、人為的な温室効果ガスの増加により、地球温暖化がもたらされているという数値が、1.5度という値を超えないようにすべきであると公表されるなど、専門家の見解が大きく報道で取り上げられていることは皆さんご存じでしょう。
 しかしあえて私は書きますが、この理論のわかりにくさが、環境への関心を、一部の人をのぞいて一般の人が持てない理由だと感じています。事実いわゆる環境の専門家には、科学者ではなくいわゆる文系の専門家が多いですよね。
 現在異常気象は皆が感じることでしょう。夏は近年暑くなりました。豪雨の具合が増えてきました。これは間違いなく人為的な活動によるものでしょう。
 社会的なエネルギー消費を調べる中で、私は太陽からのエネルギーと、世界で消費される化石燃料の大きさを計算しました。それがこのページにある174兆キロワットと、160億キロワットという値です。これは何度でも計算した値ですし、少し大きな数の取扱を勉強した人には解る計算ですが、環境の専門家を含めてあまり計算した人はいないようです。
 この二つの量はおよそ一万倍違います。174と160はさほど違いませんから、二つの量の比は兆:億すなわち一万:一となるのですね。つまり人為的なエネルギーは太陽エネルギーの0.01%に過ぎません。通常の科学者感覚では無視できる量と考えたくなる値です。しかし一方空中の二酸化炭素濃度変化も、やはり無視したくなる大きさの変化ではあります。
 しかしこのページの本文にも書きましたが、人為的なエネルギーが消費される場所は、非常にローカライズされており、集中しています。事実東京都で考えれば、その日は一万対一ではなく、十対一、つまり人為的な消費エネルギーは、降り注ぐ太陽エネルギーの10%に上ります。そしてこれは東京都という地面に当たる太陽エネルギーと、その範囲内で消費されるエネルギーの割合なのです。自然に降り注ぐエネルギーの10%も人為的に消費するし、それは自然に発生する熱と人為的に発生する熱の比に他ならないのですから、これは間違いなく都市部の気温が上昇するヒートアイランドの原因に違いありません。
 このようにエネルギーを量的に考えていくと、量的には専門家でなければ解らない温室効果ガスの理論より、より多くの人に自分のこととして関心を持ってもらえる、そう考えています。あえて温室効果ガスの理論にここでは立ち入らない理由です。わかりにくい温暖化ガス理論なしでも、持続社会を築くには化石燃料依存から脱することが必要だと、多くの人に納得して頂けるのです。さらには、脱化石燃料を効果的に行う道筋を順番に考えていくことが容易になります。
 未来を開くには、誰でも解る科学的思考に基づく、豊かな発想が必要であると思います。気象を日本伝統文化を基に捉え直すのも、その一例と考えています。

 カルノーの理論を導くに至ったカルノーサイクルの説明を下記に示します。理系の大学生でカルノーサイクルの説明を聞いたとき、消化不良を起こした学生さんは、是非お読みください。私も実は消化不良を起こした者の一人です。

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