自動車と電車のエネルギー消費

 エネルギー消費データを見る人がほとんど無いというのはとても不思議なことに思います。エネルギー消費についてのデータは、1973年のオイルショックの際設立されたIEA(International Energy Agency)という組織が世界中のエネルギー消費を細部にわたって報告しています。日本では資源エネルギー庁がIEAの要請にしたがって、日本でのエネルギー消費を1973年から毎年公表しており、すべてネットで自由にダウンロードして閲覧することが出来ます。このように誰にでも手に入るエネルギー消費が、誰にも利用されないでいる実態は、現代日本の最大級の謎かも知れません。エネルギー消費は誰にも関係ないのではなく、あきらかに現代の誰にでもまた未来の誰にでも多いに関係するのですが。
 本HPでもIEAのデータを皆さんに見やすく解説しておりましたが、2022年に改良のためにとデータ表示が止まっておりました。Sankey図という解りやすい図で示してあったのですが、それが当面ストップしています。(2025年12月現在、当該URTを探すとページが復元しつつあります。期待できそうです。)
 ただSankey図はEnergy Balance表という表から生成されるのですが、日本の消費に対しては資源エネルギー庁がIEA基準に基づくEnergy Balance表を公表しており、それを用いて日本におけるエネルギー消費の実態を皆さんに見て頂きましょう。
 まずエネルギー消費の全体像を次のグラフで見て頂きましょう。2023年の消費実績から作成したものです。

 供給する側ではなく、消費現場で消費されるのエネルギー消費を最終エネルギー消費と言います。私たちに直接関係するのは最終エネルギー消費です。一年間トータルでその消費量を報告することをIEAは要請しています。消費現場としては一番身近な例を取れば家庭ですが、その他皆さんの職場、それは第一次から第三次産業のどれかになるでしょうし、その他交通手段でも使われています。上の図で解るように、日本では工場言い換えれば第二次産業で、最大のエネルギー消費が見られますが、これは他のG7諸国では珍しいことで、日本はまだ工業立国であることを示します。
 その次に多いのが交通に使われるエネルギーになっています。これは家庭や多くの人の仕事場である第三次産業よりも多いことが解ります。家庭での省エネより交通の省エネが大切だということになります。
 IEA様式のエネルギーバランス表の特徴は、交通のエネルギーをエネルギー種別と共に、「路」について分類していることです。路は道路、国内空路、国内海路、線路に分かれます。次のグラフで見て下さい。

 興味深いことは鉄路のエネルギー消費が極端に少ないことと、道路での消費が大部分を占めることでしょう。エネルギーバランス表は各国での統計を表しますから、国際空路、国際海路は含まれていません。IEAのデータを見れば全世界版でもちろんそれは取り扱われていますが、ここでもとりあえずそれは考えないでおきましょう。空路はもちろん飛行機で、国内でも多く飛行機が飛んでいますから、空路が大きいことも解ります。海路がそんなに大きいのとびっくりする人もいるでしょうが、大量の貨物の運搬に使われているのですね。瀬戸内海でぼんやり海を眺めたりするとよくわかります。
 次にエエルギー種別での分類を見てみましょう。

 この分類で解ることは、交通のエネルギーとしては、圧倒的に石油製品が使われており98%を占めます。石油製品とはガソリン、軽油、重油(船で使います)、ジェット燃料ですね。船や飛行機では電気は使いません。一方線路ではジーゼル機関車も使われていますが、これは少数派であることはおわかりでしょう。エネルギー消費で見た電気の割合が2%であり、線路での消費の2%と合致するのは、電気の2%はEVではなく線路で使われるのはほとんど電気であることを示しています。事実交通のエネルギー消費で電気が2%であることは、過去30年ほど変わっていません。日本ではEVはまだまだ普及していないことがエネルギー消費データで解ります。端的に言えば日本における自動車のエネルギー消費が88%を占めるのに対して、電車のエネルギー消費はわずか2%であることを示します。
 石油で走る自動車をEVに変えたらエネルギー消費はどのくらい少なくなるのでしょうか?
 それを少し考えて見ましょう。それには内燃機関のエネルギー効率と電動モーターのエネルギー効率を知る必要があります。
 内燃機関とはガソリンエンジンやジーゼルエンジンのことを言いますが、ガソリンエンジンの効率は15~20%と言われています。つまりガソリンを燃したエネルギーのうちわずか15%か20%くらいが自動車を動かす力となり、残り80%以上が熱エネルギーとして逃げて行きます。ジーゼルエンジンも大差はありません。一方電動モーターでは投入したエネルギーのほとんどが運動のエネルギーに変わります。つまり投入するエネルギーの大きさでみると、ガソリン車のガソリンエネルギーは、EVの電気エネルギーの5倍ほどになります。しかし電気を火力発電で造るとすれば、日本では火力発電の効率は約40%ですから、それを考えるとEV導入が脱炭素に決定的に貢献するとは考えられません。
 一方電車の威力は上のグラフから解ります。日本でこれだけ新幹線や都会の通勤電車が走っていても、電車のエネルギー消費はわずか2%に過ぎません。まちの交通手段として電車(LRT)を導入するのが、脱炭素に大きく貢献することだと私が主張しているゆえんです。

京都にLRTをという提言を京都市長にもお願いしています。その趣旨を詳しく書いたものをお読み下さい。