カルノー理論の意味

 親ページではカルノーサイクルの説明をしました。しかしこの説明は、熱力学の教科書でのカルノーサイクルについての説明を補うためであり、一般の人には理解しがたいでしょう。そこでここではカルノーサイクルが示したことをカルノー理論と呼ぶことにし、その内容を解りやすく説明したいと思います。
 私はエネルギとは何かという問いに対して、エネルギーの三つの性質を基本として解説をしています。その三つの性質とは

  • エネルギーは変換される
  • 変換の前後で値は変わらない
  • エネルギーは最後は熱エネルギーになる

というもので、エネルギーではこの三つの性質が厳密に成り立っています。
 たとえは電気エネルギーを消費して、何か文明の利器を使用する場合を考えて見ましょう。電気エネルギーはもちろんそのままでは何の薬にも立ちません。あなたが使う文明の利器が、それぞれの役割にしたがって、電気エネルギーに変換するのです。これが第一の性質ですね。
 二番目の性質はエネルギー保存則と呼ばれるもので、エネルギーを量として考えるとき、大切な法則です。例えばテレビを考えて見ましょう。テレビでは光が映像を運び、声や楽器の音として音が運ばれます。つまり光エネルギーや音エネルギーが発生しているわけですが、これは消費した電気エネルギーが変換されたものです。さらにテレビを長く付けておけば、機器は熱くなりますが、これは熱エネルギーが発生したことになります。このように電気エネルギーが様々なエネルギーに変換されるのですが、これら発生したエネルギーを合計してやると、変換される前の(つまり消費される前の)電気エネルギーと厳密に同じ量になります。
 三番目の性質は発生した音エネルギーも光エネルギーも、消えてしまうことは皆さん経験上知っているでしょう。これは最終的にはすべて熱エネルギーに変換されるためです。そして二番目の性質から、消費された電気エネルギーと同じ量の熱エネルギーが発生するということになります。この性質はこれから述べるカルノー理論の結論とあわせて、エントロピー増大則という物理法則として、エネルギー保存則と同時に、エネルギーを考えるとき、無くてはならない法則になっています。
 さてそれではカルノー理論とは何でしょう。
 エネルギーの三つの性質で捉えきれないことがあります。三番目の性質をそのまま受け取ったら疑問を持つ人もいるでしょう。火力発電では熱エネルギーが電気エネルギーに変わっているのじゃないの?
 そうです。その通りです。燃料を燃してそれから必要なエネルギーを取ることは、様々な場面で使われています。燃料を燃すことはエネルギーで見ると燃料が持っているエネルギーを燃して、つまり酸化させて、熱エネルギーを売ることなのですね。例えば石油一リットルが持つエネルギーは、決まっています。
 火力発電でも、自動車のエンジンでも、燃料を燃します。燃して熱エネルギーを大量に発生させます。この熱エネルギーを電気エネルギーとか、自動車の運動のエネルギーに変換させるのです。
 カルノーはこの熱エネルギーを他のエネルギーに変えるとき、限界はないのだろうかと考えたのです。そしてカルノーは大切なことに気がつきます。熱エネルギーを他のエネルギーに変換するための機械を熱機関と言いますが、熱機関では燃料を燃して造る高温部だけでは作動せず、発生した熱を流し込む低温部が必要であると気がついたのです。
 熱機関では高温部から低温部に熱エネルギーが流れていきます。このエネルギーの流れの一部だけが、電気エネルギーや運動のエネルギーのように目的のエネルギーとなり、のこりの熱エネルギーはそのまま低温部に流れ込むのです。
 例えばある火力発電所で燃料を燃すとしましょう。燃しただけ熱エネルギーが発生します。そのままだと低温部としての大気や海水などに熱が流れるだけです。そこにタービンを持ち込みます。タービンは例えば100の熱エネルギーの流れを40だけ電気エネルギーに変えるかも知れません。そのときは60の熱エネルギーが低温部に流れ込むことになります。つまりこの場合発電効率は40%ということになります。
 カルノーはまず熱機関の効率が100%にはなり得ないことを見つけました。熱機関には必ず発生した熱エネルギーを流し込む低温部が必要だと、カルノーの論文には明記してあります。
 そして彼は高温部から低温部に流れる熱エネルギーのうち何%が目的のエネルギーとして取り出せるのだろうと考えました。つまり熱機関の理論的な最大効率はどのようになるのかを考えたのです。それを見つけるためにカルノーサイクルという「理想的な」熱機関を考えだしたのです。そしてある公式を導きました。
 彼の公式は後に絶対温度の考え方を促しました。絶対温度とはマイナス273℃を絶対零度とする温度の測り方です。それによって導かれる熱機関の最大効率は、厳密に理論的に次の式になります。

  熱機関の最大効率 = \frac{高温部の絶対温度ー低温部の絶対温度}{高温部の絶対温度}

この最大効率は当該熱機関が、爆音も出さず余計な振動も発生させず、静かに安定的に作動することで得られる「理想的な」場合によってのみ達成されます。カルノーサイクルはそのような「理想的な」熱機関の例なのです。
 明らかにガソリンエンジンなどの現実的な熱機関は、上記の要件を満たしていません。ガソリン車の振動はEVに乗ってみれば解りますが、大変な振動を起こしています。また自動車には消音器が取り付けられて音エネルギーを消していますが(当然熱エネルギーに変わります)、消音器をわざと取り外したバイクなどを乗って喜ぶ人もいて、ガソリンエンジンは恐ろしく爆音を出している、つまり大きな音エネルギーを出している、ことがわかります。
 ガソリンエンジンは効率が15~20%といわれています。ガソリンを燃して出来る高音部が300℃程度としましょう。これは絶対温度600K程度となります。低温部は常温の300Kくらいですから、理論的最大効率は50%となります。振動や音でエネルギーを無駄にしていますから、効率が低くなるのは当然ですね。
 カルノーは自然の中にも巨大な熱機関を見ていました。例えば台風も熱機関と言ったら驚くでしょうか?
 台風は南の海で発生します。海水温が高温部の温度です。ここから上昇気流が発生します。上空の低温部への熱エネルギーの流れが出来るのです。海から流れる熱エネルギーが大きくなり、その一部が台風のエネルギーに変わります。海が抱え込んでいる熱エネルギーが、上空に向けて大きく流れ出します。
 近年異常気象として台風が巨大化しました。日本近海は海水温が多少高くなっていることは、理化学辞典や環境事典にもかなり前から載っています。つまり日本近海の海水がそれだけ熱エネルギーをたくさん抱え込んでいるのです。これは原発や火力発電所から排出される熱エネルギーも、かなり貢献しているのではないか、そう私は考えています。ここで述べたようにこれらの発電所は、高音部からの熱エネルギーの流れを、日本では通常海水に流し込んでいるのですから。そして日本での電力消費は、過去数句有年に渡り、巨大化しているのですから。海を低温部と見なすことは、発電効率を上げるためというので通常利点とされますが、もし日本近海の海水温をあげることに貢献をしているなら、考え直さなければならないことになると思います。